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明日も楽しい学園祭〜私立ジャスティス学園
 

 Written By オードリー羽田


 もとより、100円である。
 数分で決着を付けねばならないのである。
 ゲームセンターのゲーム、とりわけ対戦格闘は、その宿命を背負っている。
 ハイクォリティなムービーも、涙を誘うようなセリフも、彼らには求められていない。
 ただ淡々と、わずかばかりの設定を与えられたキャラクターが死にもの狂いで戦うだけだ。
 互いにしのぎを削り、肉が切れ骨のきしむ音に歓喜しながらしかし戦士達は、終わらない闘いの日々に次第に疲れていった。

 作られた物語に適度な遊びがあれば、そこには受け手の想像する余地が生まれる。
 作り手が意図しなかった所からストーリーを紡ぎ出すのは、存外楽しい。
 ディティールに凝れば凝るほど、無理な展開に無理矢理な説明を付ければ付けるほど、汎用性は無くなっていくがコアなおもしろさは増していき、それがまた物語を作っていく。
 いわゆる、パロディ。いわゆる、オレ的××
 それはゆっくりと、戦士達を包み込むように広がっていった。

 私立ジャスティス学園(以下ジャス学)が画期的だったのは、そういった流れを公認に近い形で黙認し、しかも格ゲーでありながら女性ファンに重みを置いた形で開花させた事にある。
 ジャス学の挌闘システム自体は一方的なコンボの応酬で、あまり対戦に向いたものではなかった。
 事実アーケード版は後継機スターグラデュエイター2などが出た時点で大半が姿を消し、顕著な人気を誇示したわけではない。
 それがプレイステーションに移植される段階になって熱血青春日記が付け加えられることが明らかになり、それまでプレイしなかったユーザーの間でも密かに人気を呼び始めたのであった。

 この格闘版ときメモだが、ベタ移植では売りが弱いと踏まれた点もあるだろう。
 しかしここではそれ以上に、熱血青春日記が無理なく現れるような設定が当初よりなされていた所に注目したい。
 忍びの一族を柱として、主人公を始めとして主な登場人物が全て高校生、彼らを取り巻く異常なまでに濃い友情と血縁、立ちすぎのキャラクター。
 あまりにもお約束オマージュにあふれすぎた世界だが、力みを抜いたスタッフの尽力が紙一重でそれを鼻に突くものにさせない。
 なによりきわめて真面目に、バカげた世界を作り込む姿勢がマニア、とりわけ女性ファンの心を揺さ振ったのである。

 女性特有のパロディというといわゆるやおいであり♂同士の絡みに目が行ってしまうが、同じように男性向けパロディを書かせても交合シーンに重みを置く男性に対し、女性はそこに至るまでの過程・心理状況・設定を咀嚼したコマが至る所に現れたりする(どちらが優れているかという事ではなく、演出方法の違い)
 ありがちな恋愛シミュレーションの衣を被った熱血青春日記は、これらの好んで行間を読みたがるユーザーに見事ヒットした。
 それを端的に示すのは男キャラ同士のハッピーエンディングである。
 およそゲーム雑誌では主として取りあげられなかったこのシナリオが、実は恐ろしいほど物語に深み(底なしかもしれない)を与えている。
 穏やかで優しい恭介やプレイボーイのロイがあっさりと懐柔できるのに対し、主人公である伐の身持ちが異様に固く、一時は難攻不落とまで噂された(その後発売された攻略本で的確にフラグをクリアすれば落とせることがわかった)
 そんな細かいキャラクター(しかも表にはあまり出てこない)が練り込まれた世界を行間を読むユーザーが放っ
ておくはずがない。
 極端な例かもしれないが、夏コミカタログ(応募は2月締切)では格ゲーサークルのページにジャス学カットは際立った多さを見せてはいなかった。
 しかし当日になると、カットは描かなかったがジャス学突発本を売り始めるサークルが続出した。
 7/30という発売日のお陰もあっただろうが、本番間近になってファン達に本を作らせるだけのエネルギーをジャス学は持ち得たのである。

 むろんそういったアヴァンギャルドな面だけが、プレステ版ジャス学の全てではない。
 新キャラ熱血隼人先生の指導により技を練習できたり、実技試験はキャラ性能に響くがあまり恋愛の行方を左右しなかったり、ヘヴィな人向けには多様な対戦モードやCPU同士の闘いも見れる、といった作りが多くのユーザーをフォローするものになっている。
 やり込んでおもしろく、間口はあくまで広く。
 ゲームに求められる(しかし非常に難しい)課題がここにはある。
 これが新しい雛形、というわけではないだろう。
 これを追随しなければいけない、という法もないだろう。
 しかし1ジャンルとして定着する代わりに大ヒットとも縁遠くなってしまった格ゲーの、新たな一歩がこのジャス学であることは確かだ。
 転びやすい女性ゲーマー達がどう動くか、今後見守って損はない。

 


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