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知らない間に新発売

 Written By ABC
 今度の本の発売遅れのお詫びに、本に載せられない没原稿をこっそり公開してみることにする。
 
 大手アダルトソフトメーカーの社長Eさんは、自らシナリオを書いて開発の陣頭指揮を取る現場型の社長さんです。社長業とシナリオライターの兼任による多忙な毎日のため、好きなゲームセンターに行くこともままなりません。
 そうこう言いながらもやっとシナリオのマスターが上がり、少し時間の出来たEさんは気分転換にゲームセンターへと繰り出しました。
 ゲーム造りで溜まったストレスはゲームで解消、というわけです。

 一通り新作のシューティングゲームをチェックし、格闘ゲームの対戦台に乱入。相手が強すぎたり弱すぎたりで飽きてくれば、あとはピンボールを一回だけプレイ。
 というお決まりのゲーセン巡回ルートでは今イチ物足りなかったその日のEさんは、たまにはそれ以外のゲームでもやってみようと思い立ち、麻雀コーナーに足を伸ばしました。

 会社の組織が大きくなったとはいえ、あくまでも現場に立ち続けるアダルトソフトメーカーの社長として、アーケードゲームのグラフィックの水準は常に注意を払うべき対象です。いくつかの麻雀ゲームを眺めながら歩いていると、何やら自社ソフトのEさん自らが手がけた大ヒットゲームのパチモノのような絵柄のゲームが目に留まりました。
 有名人やアニメのパロディものは麻雀ゲームの人気ジャンルのひとつです。そこに自分が手がけたゲームのパロディが出たのか、とある意味で感慨深くなってきます。

 しかし、それにしても汚い画面です。まるで原画を安物のイメージスキャナでそのまま取り込んだような絵でした。
 でも下手糞なのを無視すれば、見れば見るほど自分の手がけたゲームにソックリのキャラクターが出過ぎています。それどころか、よく見ればEさんの手がけたゲームの名シーンに酷似した画面まであります。
 そろそろ不審に感じはじめたそのとき、画面にでかでかと
「麻雀○○○」
 と表示されたタイトルを見たEさんは驚きました。これ俺のゲームじゃねえか!
 Eさんはこのゲームの製作者である以前に、この会社の社長さんです。なんで自分が知らないうちに、勝手にゲームが出ているのか納得いきません。しかも社員の誰かが手がけたものならともかく、他ならぬ自分が手がけた大ヒット作品の麻雀ゲーム版を、今まで存在すら知らなかった会社が造っていたのです。
 いつまでも前線に立ち自分は社内の全てを把握していると思っていたEさんは、自分の手がけた大ヒット作ゆえに、これで社内に自分の預かり知らぬ部分が出来るほど大きくなったことを思い知ったのではないでしょうか。

 こういうことって、あるんですねぇ。

 教訓:社会は理不尽です。
 
 



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